無呼吸症候群が原因で不眠に…どうすればいいの?

無呼吸症候群とは?不眠とどう関係しているのか

睡眠時無呼吸症候群(SAS)の基本概要

睡眠時無呼吸症候群(SAS:Sleep Apnea Syndrome)とは、睡眠中に呼吸が一時的に止まる、または大きく弱まる状態が繰り返される病気です。多くは「閉塞型(OSA)」と呼ばれ、上気道が舌や軟口蓋などによって塞がれてしまうことが原因で起こります。10秒以上の無呼吸が1時間あたり5回以上あれば、SASの可能性があるとされます。

SASは一見すると「ただのいびきがひどいだけ」と見られがちですが、実際には深刻な健康問題につながる疾患です。特に、心疾患や高血圧、脳卒中などのリスクを高めるだけでなく、「質の悪い睡眠」をもたらす点で、日常生活にも大きな影響を及ぼします。

なぜSASが不眠の原因になるのか

無呼吸症候群は、呼吸が止まるたびに脳が「呼吸しろ!」と命令を出し、無意識のうちに覚醒させます。この覚醒は本人の自覚がないことも多いものの、何十回も繰り返されることで、結果的に深い睡眠(ノンレム睡眠)が妨げられます。つまり、「眠っているつもりでも実は眠れていない」状態が続くのです。

その結果、次のような不眠症状が現れます:

  • 夜中に何度も目が覚める(中途覚醒)

  • 朝早く目が覚めてしまい再入眠できない(早朝覚醒)

  • 寝つきが悪くなる(入眠困難)

これらは典型的な不眠症状であり、SASの存在に気づかないまま放置されているケースも少なくありません。睡眠の質が悪化することで日中の眠気や集中力の低下、さらにはうつ症状を引き起こすこともあり、放置は禁物です。

無呼吸症候群による不眠のメカニズム

呼吸の停止が脳を覚醒させる仕組み

無呼吸症候群では、睡眠中に空気の通り道(気道)が塞がることで呼吸が止まります。すると血液中の酸素濃度が低下し、それを察知した脳が危険信号を出して強制的に目を覚まさせようとします。これが「覚醒反応」です。

この覚醒反応は、本人が気づかないうちに何度も繰り返されます。たとえば、重症のSASでは1時間に30回以上、夜間合計では数百回に及ぶこともあります。こうした頻繁な覚醒によって、深い眠り(ノンレム睡眠)の時間が極端に短くなり、結果的に「眠った気がしない」「疲れが取れない」という状態を招きます。

寝ても疲れが取れない理由とは

通常の睡眠では、浅い眠りから深い眠りへと段階的に移行し、身体や脳がしっかりと回復します。しかし、SASによって睡眠が細切れになると、深い睡眠(ステージ3や4)に到達する前に覚醒してしまい、回復効果が著しく低下します。

そのため、以下のような不調が現れます:

  • 起床時に頭が重い、スッキリしない

  • 昼間に強い眠気に襲われる

  • 思考力・集中力が低下する

  • 気分が落ち込みやすくなる

これは「眠っていても眠れていない」状態であり、慢性化すると日常生活に大きな支障をきたします。

中途覚醒・早朝覚醒との関係

SAS患者の多くが訴える症状のひとつに「中途覚醒(夜中に何度も目が覚める)」があります。これは無呼吸や低呼吸による酸素不足により、脳が無意識に覚醒するためです。また、早朝に目が覚めて再入眠できない「早朝覚醒」もよく見られる傾向があります。

こうした覚醒が繰り返されると、眠ること自体に不安を覚え、結果として入眠困難まで引き起こす「不眠症スパイラル」に陥る可能性もあるのです。

無呼吸症候群による不眠が引き起こす体への影響

慢性的な睡眠不足のリスク

無呼吸症候群による断続的な覚醒や浅い睡眠は、本人が自覚していなくても深刻な睡眠不足を引き起こします。これは単なる「寝不足」ではなく、慢性的な睡眠の質の低下によって体と脳の回復が十分に行われない状態です。

その結果、以下のようなリスクが現れます:

  • 免疫力の低下:風邪をひきやすくなる

  • 疲労の蓄積:日中のだるさ、倦怠感

  • 作業効率の低下:注意力・判断力が鈍る

  • 事故リスクの増加:居眠り運転など

特に、睡眠が浅い状態が続くと脳の働きが悪化し、仕事や家事のミスが増えるなど、社会生活に大きな影響を与えます。

精神的ストレスやうつ症状の誘発

無呼吸症候群によって生じる不眠は、精神的な健康にも大きく関わっています。質の悪い睡眠が続くことで、以下のような精神症状が現れることがあります:

  • 不安感やイライラ

  • 集中力の低下、記憶力の低下

  • 興味や喜びの喪失

  • 抑うつ状態やうつ病のリスク増加

不眠とうつ病の関係は深く、互いに悪影響を及ぼしあう「悪循環」が知られています。特に中高年層では、睡眠の不調がうつ症状の前兆となるケースもあるため注意が必要です。

高血圧や生活習慣病との関連性

SASによる睡眠中の酸素不足と自律神経の乱れは、身体の各器官に過剰なストレスを与えます。これが血圧上昇の要因となり、高血圧の発症率が高まることが医学的にも確認されています。

また、次のような生活習慣病との関係も深いです:

病気の種類 SASとの関連
高血圧 無呼吸による覚醒反応が交感神経を刺激し、血圧が上昇する
糖尿病 睡眠不足によるインスリン抵抗性の悪化
心筋梗塞 酸素不足と血管への負担が増えることで発症リスクが上昇

このように、無呼吸症候群による不眠は単なる眠れない不快感ではなく、重大な健康リスクを抱えている状態です。

不眠の原因が無呼吸症候群か見極めるには?

自覚症状チェックリスト

無呼吸症候群が原因の不眠は、他の不眠症状とは見分けがつきにくいことがあります。しかし、以下のような症状が当てはまる場合は、SASの可能性を疑うべきです。

簡易チェックリスト:あなたはいくつ当てはまりますか?

  • 毎晩いびきをかくと言われる

  • 寝ている間に「呼吸が止まっていた」と指摘されたことがある

  • 夜中に何度も目が覚める

  • 起床時に頭痛やだるさを感じる

  • 昼間に強い眠気を感じることが多い

  • 集中力が続かず、仕事や家事に支障が出る

  • 高血圧や糖尿病などを指摘されたことがある

2つ以上当てはまる場合は、睡眠時無呼吸症候群の可能性が高まります。特に、呼吸の停止や強い日中の眠気がある場合は、早めに専門機関での診断を受けることが大切です。

家庭用検査キットや病院での検査方法

最近では、病院に行かずとも自宅でできる簡易検査キットが普及しています。指にセンサーをつけて酸素濃度や脈拍を測定し、無呼吸の有無をチェックする仕組みです。耳鼻咽喉科や睡眠外来などで処方してもらうことができ、費用も保険適用で3,000~5,000円前後(3割負担)と手軽です。

より正確な診断を希望する場合は、**終夜睡眠ポリグラフ検査(PSG)**が有効です。これは一晩入院し、脳波・眼球運動・呼吸・心電図・筋電図などを詳細に記録する精密検査で、SASの重症度を客観的に評価できます。

診療科は何科に行けばいい?

SASの検査・治療は主に以下の診療科で行われています:

症状・希望内容 推奨される診療科
いびき・鼻詰まりがある 耳鼻咽喉科
睡眠の質が悪い・眠気が強い 睡眠外来、呼吸器内科
持病(高血圧・糖尿病)がある 内科と連携が必要な専門クリニック

まずは耳鼻咽喉科や内科で相談し、必要に応じて専門医を紹介してもらうとスムーズです。

不眠解消のためにできる対策

睡眠習慣の見直しと生活改善

まず最初に取り組むべきは、日常生活における睡眠環境や習慣の見直しです。無呼吸症候群による不眠を軽減するためには、次のような生活改善が効果的です。

生活習慣の改善ポイント:

  • 体重管理:肥満はSASの大きな原因。減量により気道の圧迫を軽減できる

  • 禁煙・節酒:喫煙や就寝前の飲酒は気道の炎症・弛緩を引き起こし悪化要因に

  • 横向きで寝る:仰向け寝よりも気道が確保されやすくなる

  • 寝る前のスマホやカフェインを控える:睡眠の質を高める基本習慣

これらの取り組みだけでも、軽度のSASや不眠症状が改善されることがあります。

CPAP療法やマウスピース治療

中〜重度のSASによって引き起こされる不眠の場合、医療的な治療が必要です。代表的な治療法には以下のようなものがあります:

治療法 内容 特徴
CPAP療法 機械から圧力をかけた空気を鼻から送り、気道を広げる 最も一般的で効果が高い。保険適用あり
マウスピース療法 就寝中に装着し、下顎を前に出して気道を広げる 軽度〜中等度のSASに有効。歯科で作成
手術療法 鼻や喉の構造的な問題を外科的に改善 根本治療が可能だが、適応には慎重な判断が必要

特にCPAPは、装着時の違和感こそあるものの、使い続けることで睡眠の質が大幅に改善されるケースが多く、不眠解消にも直結します。

専門医の診察を受ける重要性

「眠れないのは年齢のせい」とあきらめてしまっている方も多いかもしれません。しかし、無呼吸症候群が隠れている可能性がある以上、専門医の診察を受けることは非常に重要です。

次のような症状がある方は、早めに医療機関を受診しましょう:

  • いびきが大きい、または止まっていると言われた

  • 起きたときに疲れが残っている

  • 昼間に強い眠気や集中力低下がある

  • 睡眠薬を飲んでも眠れない

原因が明確になることで、適切な治療法が選べるようになり、結果として不眠も改善されます。自分の体と向き合うことが、質の良い睡眠と健康の第一歩です。

まとめ

睡眠時無呼吸症候群(SAS)は、ただの「いびき」と見過ごされがちですが、実は不眠の根本原因となっているケースが多くあります。呼吸の停止や低下による断続的な覚醒は、睡眠の質を大きく損ない、「寝ても疲れが取れない」「夜中に何度も目が覚める」といった深刻な症状を引き起こします。

SASに起因する不眠を改善するには、まずは自分の状態を正しく知ることが重要です。自覚症状がある場合は、自己チェックや簡易検査を活用し、必要に応じて専門医の診断を受けましょう。生活習慣の見直しや医療的治療(CPAP、マウスピース)を通じて、質の高い睡眠を取り戻すことが可能です。

睡眠は心身の健康の土台です。不眠が続く方は「もしかすると無呼吸症候群かもしれない」という視点を持ち、早めの対策を取ることをおすすめします。


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