睡眠時無呼吸症候群は遺伝する?親から子へ受け継がれるリスクと確率、対策法を解説

睡眠時無呼吸症候群(SAS:Sleep Apnea Syndrome)は、睡眠中に呼吸が一時的に止まってしまう病気で、日本でも推定で数百万人が悩んでいるといわれています。特に中年以降の男性に多く見られる傾向がありますが、実は若年層や女性にも一定数の患者が存在します。

この病気は「太っている人がなるもの」「年を取ったら誰でも起こるもの」といったイメージが強くありますが、実際にはそれだけでは語れません。近年、**「睡眠時無呼吸症候群は遺伝するのではないか?」**という疑問が注目されており、家族内での発症が多いことから、遺伝的な要因の影響が示唆されています。

たとえば、「父親が重度のSASでCPAP治療中」「母もいびきがひどく、昼間に眠気が強い」といった家族歴がある場合、その子どもも将来的にSASを発症する可能性が高くなるという報告もあるのです。

しかしながら、「遺伝する」とひと口に言っても、それがどのような仕組みによるものなのか、どれくらいの確率で起こるのかは、あまり知られていません。

本記事では、「睡眠時無呼吸症候群 遺伝 確率」というキーワードをもとに、

  • 睡眠時無呼吸症候群は本当に遺伝するのか?

  • 遺伝が関係しているリスク要因とは?

  • 実際の発症確率や研究データは?

  • 遺伝リスクがある場合、どんな対策が可能か?

といったポイントをわかりやすく解説していきます。
ご自身やご家族に当てはまる方は、ぜひ最後までお読みください。

睡眠時無呼吸症候群は遺伝するのか?

「睡眠時無呼吸症候群(SAS)は遺伝するのか?」という疑問に対して、近年の研究や臨床データは**「遺伝が関与している可能性が高い」**という方向で一致しています。ただし、遺伝だけが原因とは言い切れず、環境要因や生活習慣との複合的な影響があると考えられています。

実際、SASの患者の中には、親子や兄弟姉妹といった血縁関係の中で複数の発症者が見られるケースが多く報告されています。特に親がSASだった場合、子どもも似たような骨格的特徴や体質を持ちやすいため、リスクが高くなると考えられています。

ただし、ここで重要なのは、「SASそのものが遺伝する」のではなく、SASを発症しやすい身体的特徴や体質が遺伝するという点です。具体的には、

  • あごが小さい、後退している

  • 首回りが太く、気道が狭い

  • 舌が大きく、喉の奥に落ちやすい

  • 太りやすい体質

といった構造的・体質的な要素が遺伝的に受け継がれることが、結果としてSASの発症に繋がるというわけです。

また、生活習慣の似通いも見逃せません。たとえば、食生活や睡眠習慣、運動不足などの「環境要因」も家族間では共通しやすいため、遺伝と環境が複雑に絡み合ってSASを引き起こすと考えるのが妥当です。

このように、SASには明確な遺伝要因があるわけではありませんが、遺伝の影響は無視できないことがわかります。家族にSASの既往歴がある場合、自分もリスクが高いと認識し、早めのチェックを心がけることが大切です。

遺伝的なリスク要因とは?

睡眠時無呼吸症候群(SAS)のリスクを高める要因の中で、特に遺伝的な影響が強いとされているのが骨格や体質、筋肉の構造など先天的に決まる身体的特徴です。以下では、具体的なリスク要因を挙げながら、その遺伝との関係を解説していきます。

1. 顎の骨格や顔の形

最もよく知られているのが、顎が小さく後退している骨格です。下顎が引っ込んでいると、舌や喉の軟部組織が気道に近づき、寝ている間に空気の通り道が狭くなる可能性が高まります。このような骨格は遺伝しやすく、親が小顎(しょうがく)や受け口である場合、子どもも同様の骨格を持つ確率が高くなります

2. 首まわりの太さ・脂肪のつき方

SASのリスクを高める要因として、首まわりに脂肪が多くついていることも知られています。これは肥満体質とも関連しており、体脂肪の分布傾向が遺伝することから、両親が肥満傾向にある場合、子どもにも同じ体質が遺伝する可能性があります

3. 舌の大きさや位置

舌が大きく、睡眠中に喉の奥へと落ち込みやすい構造を持っている場合も、無呼吸を引き起こしやすくなります。舌の大きさや、舌の付け根の位置なども遺伝的に決まる部分が多く、親子で似た傾向が見られることがあります。

4. 筋肉の緊張のしやすさ(筋緊張)

眠っている間、喉の筋肉がゆるみやすい人は、気道が塞がりやすくなります。このような筋肉の緊張状態を保ちにくい傾向も、遺伝的な要因と関連があると考えられています

5. アレルギー体質や鼻づまりの傾向

アレルギー性鼻炎や慢性的な鼻づまりなども、呼吸の通り道を狭める原因となります。これらのアレルギー体質も家族間で受け継がれることが多く、複合的にSASのリスクを高める要因となります

遺伝による発症確率はどれくらい?

「親が睡眠時無呼吸症候群(SAS)だと、自分も発症しやすいのか?」という疑問は、多くの人にとって非常に現実的な関心ごとです。実際、遺伝がSASの発症に与える影響は無視できないレベルであり、いくつかの研究ではその傾向が統計的に示されています。

たとえば、アメリカで行われた大規模な疫学調査(ウィスコンシン睡眠コホート研究)では、親がSASであった場合、その子どもがSASになるリスクは約2倍に高まると報告されています。また、兄弟姉妹にも同様の傾向が見られ、遺伝的な要素が家族全体のリスクに影響していることがわかります。

さらに、オーストラリアの双子を対象とした研究では、一卵性双生児の一方がSASを発症した場合、もう一方が発症する確率は60%以上であるのに対し、二卵性双生児ではその確率が30%程度に下がるという結果が出ています。これは、遺伝的な要素が少なくとも発症の半分以上に関与していることを示唆しています。

日本人に関しては明確な大規模調査が少ないものの、クリニックや病院の臨床現場では、家族単位でSASと診断されるケースが珍しくありません。特に、同じような食生活や生活リズムを共有している家族においては、遺伝だけでなく環境的要因も加わって発症リスクが高まっていると考えられます。

また、以下のようなケースでは遺伝の影響がより強く疑われます:

  • 両親ともにSASの診断を受けている

  • 若年のうちからいびきがひどく、日中に強い眠気を感じる

  • 幼少期から顎が小さい、アレルギー体質である

このような兆候がある場合には、遺伝的な背景を前提にした早めの対策が推奨されます

結論として、SASの発症には個人差があるものの、親がSASである場合、子どもの発症確率は一般の2〜3倍程度にまで上がると見るのが妥当です。だからこそ、自身の家族歴を把握し、予防や早期検査を心がけることが重要です。

遺伝的リスクがある人が取るべき対策

睡眠時無呼吸症候群(SAS)の発症リスクが高いとわかっていても、完全に避けることは難しいかもしれません。しかし、「遺伝的リスクがある=必ず発症する」わけではないということを理解し、適切な対策をとることでリスクを大きく下げることが可能です。

以下では、遺伝的なリスクを持つ人が日常生活で実践できる予防・早期発見のためのポイントを紹介します。

1. 生活習慣の見直し

まず基本となるのは、生活習慣の改善です。特に以下の点はSAS予防に重要です:

  • 肥満防止:SASの大きな要因の一つが肥満です。特に首まわりに脂肪がつくと気道が圧迫されやすくなります。バランスの取れた食事と適度な運動を習慣化することが大切です。

  • アルコールと喫煙の制限:アルコールは喉の筋肉を緩め、無呼吸を引き起こしやすくします。また、喫煙も気道の炎症を引き起こす原因となります。

  • 睡眠姿勢の工夫:仰向けで寝ると舌が喉に落ち込みやすくなるため、横向きで眠る工夫をすると良いでしょう。

2. 早期の検査と診断

家族にSASの患者がいる場合、自分にもその可能性があることを念頭に置き、少しでも兆候を感じたら早めに検査を受けることが重要です。以下のような症状があれば要注意です:

  • 寝ているときの大きないびき

  • 寝ている間に呼吸が止まっていると言われる

  • 日中に強い眠気がある

  • 朝起きたときに頭痛がする

こうしたサインに気づいたら、耳鼻科や呼吸器内科、睡眠外来などで相談し、**簡易検査キットや終夜睡眠ポリグラフ検査(PSG)**を受けることをおすすめします。

3. 家族内の共有とフォロー

遺伝的リスクは自分だけでなく、兄弟姉妹や子どもたちにも関係する問題です。そのため、家族全体でSASに対する知識を共有し、お互いに症状の変化に気づける体制を作ることが望ましいです。特に子どもの場合、いびきや口呼吸が続いているようであれば、小児科や耳鼻科でのチェックが推奨されます。

まとめ:遺伝の可能性を知って正しく対処しよう

睡眠時無呼吸症候群(SAS)は、いびきや無呼吸を伴うだけでなく、長期的には高血圧や心疾患、脳卒中、糖尿病といった重篤な病気を引き起こす可能性がある重大な疾患です。その原因には、生活習慣だけでなく「遺伝的な要素」が深く関係していることがわかってきました。

親や兄弟姉妹にSASの診断歴がある場合、自分自身も似たような骨格や体質、さらには生活スタイルを共有している可能性が高く、発症リスクは一般の人よりも確実に高まります。しかし、遺伝するのは「病気」そのものではなく、発症しやすい傾向や条件です。だからこそ、早めに知っておくことが最大の予防になります

また、遺伝的リスクがあっても、適切な生活習慣の維持や早期の検査を行うことで、発症や重症化を防ぐことは十分可能です。特に以下のようなポイントが重要になります:

  • 自分や家族の症状に敏感になる

  • 生活習慣(体重、食事、睡眠姿勢など)を整える

  • 気になる症状があれば早めに医療機関を受診する

  • 子どもにも症状があれば小児科や耳鼻科で相談する

SASは放置すれば命に関わるリスクもある一方で、早期発見・早期治療をすれば日常生活の質を大きく向上させることができる病気です。遺伝の影響を完全に避けることはできませんが、知って対策することで未来は変えられます。

自分自身と、家族の健康を守るためにも、ぜひこの機会に睡眠の質を見直し、必要に応じて医師の診察を受けることを検討してください。


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